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にとりとにとり

「――できた!」

私――河城にとりは興奮したように叫んだ。事実、興奮しているのだが。
日頃から機械をいじることが好きで、河童の技術は宇宙一だと自負している私は、究極の発明に挑んだ。

――自分と瓜二つのロボットを作ること。

きっかけは些細なものだった。
盟友の人間で、仲の良い霧雨魔理沙と話していたときのこと。

「河童の技術って、一体全体どのぐらいまでできるんだ?」
「どのぐらい、って言うと?」
「いや、なんかにとりの発明品を見ていると、あんまりたいしたもんじゃないって思えてくるんだよな」
「なにをー!」
「なんかこう、素ですげぇって思えるものを私は見たいんだ」
「よーし分かった。じゃあとっておきの発明品を作るから覚悟してて! 驚いたらきゅうり半年分貰うよ!」
「半年分ってまた微妙な……」

以上が会話の一部分だ。
そんなこんなで私は、魔理沙を驚かすべく物凄い発明品を作ることにした。

「……とはいうものの、何を作ったらいいかな」

知り合いのパチュリーの所で文献を読みあさり、日夜寝る間を惜しんでアイディアを練りに練る。
知り合いのアリスに相談してもみた。
そして私は、一つの答えにたどり着いた。
それが、自分そっくりのロボットを作ること。
アリスの人形を見てピンときたのだ。私は魔法に関してはまったくわからないけれど、魔法とは原理の違う、科学の粋の詰まったロボットを作れば、魔理沙もびっくりするんじゃないかと。
私は早速、材料をかき集めて開発に着手した。
失敗の連続、設計図の練り直し、材料不足。紆余曲折あったけど、私はついに完成にこぎつけた。
疲労からくる眠い目をランランと輝かせ、ドキドキと期待に高鳴る胸を抑えることもせずにロボットに魅入る。

「私、がいる……」

言葉通り、目の前には私が横たわっていた。
皮膚。見た目も触り心地も本物そっくりの人工皮膚。すべすべしていて、自分を省みないで機械いじりばかりしている私と違い、綺麗な肌。
髪の毛。自ら切った髪を元に、人工的に増やした毛を合わせたもの。サラサラで、傷の無い艶やかな髪。
そして、私と同じ洋服や帽子、リュックなどの小物。
これらは、私の技術ではどうにもならなかったので、永遠亭の頭脳である八意永琳とアリスに協力をしてもらった。永琳には互いの技術の提供の条件で皮膚や髪の毛など身体的な部分を、アリスには予備という名目で服飾類を作ってもらった。
じっくり見ると胸が私よりもやや大きくて、でも細身でスタイルがよくて…………ぱるぱるぱる。
妬ましいほどに、作業台に横たわっているのは、私以上の私だった。

「早速起動してみようか……」

私は起動スイッチに指をかけた。鼓動がどんどん速くなっていく。
ちゃんと動くかな。壊れたりしないかな。
いろんな不安が頭をよぎるけど、それらを振り切ってスイッチを押す。
………
……

「あ、あれ?」

起動しない。私の脳裏に、またもや最悪なパターンがよぎる。
大前提の設計がきちんとできていなかったのではないか。
がっくりと肩を落としかけると、静かに駆動するモーター音と共に、金属同士がこすれあうような音が耳に入ってきた。
顔を上げると、

「あ……あ……!」

作業台の上で、私のロボットが上半身を起こしていた。

「うわ、うわ、うわー!」

私は興奮のあまり、ロボの周りを回っていろんな角度から観察した。ロボはその間、寝起き直後のようにぼーっとしながら辺りをきょろきょろと見ていた。
その視界に私が入ると、ロボは私のことをじっと見つめてきた。
冷たく無機質で、でも、真っ直ぐで綺麗な瞳に、私はなぜかドキドキしてしまった。

「は、はじめまして」

はにかんで、挨拶をしてみる。どんな反応が返ってくるかな。

「……」

無言。

「あれ……言語回路の故障? 音声回路の接続ミス?」

私があわあわしていると、

「はじめ、まして……」

小さく、返事が返ってきた。
驚きと共に、私の中に安堵の気持ちがじわじわと湧いてきてすごく嬉しかった。

「えっと……ごめん、なさい。今の状況がわからなくて、考えていました。でも、もう大丈夫なはず、です」

まだ馴れていないせいか、少し片言だけど、はっきりとした口調で喋るロボ。
ぉぉぉぉぉぉぉ……。
軽く微笑んだだけだけど、すごく可愛い。やっぱり素材がいいんだなぁ。
そこまで考えて、自分のことじゃんと思い、一人で恥ずかしくなる。

「私は、GK-001、河城にとり。あなたは?」
「私は――私も、河城にとりっていうの。よろしくね!」

言って、手を差し出す。
ロボは、私の顔と手を見比べて、ゆっくりと手を取った。わ、やーらかい。

「あなたも、にとりっていうの? ……偶然ね」

ロボがはにかんだ。
私も笑って、二人で笑顔を浮かべながら、しばらく手をつなぎ合っていた。


ロボには感情と感覚と、思考能力を組み込んだ。それと、ものを食べることができる機能も。
言葉遣いは、友達の神様を参考に丁寧なものにしてみた。さすがに中身まで自分そっくりだと変な感じなので。
……実際はスタイル込みで私の願望なんかも含んでいるのだけど。
名前のやりとりは、先に名乗るようにプログラムをしていた。だから、お互いに「にとり」で笑い合うのは、計算通りといえる。
一応わかりやすくする為に、私は彼女を指すときは分かりやすくロボとした。言葉に出す場合は、愛情をもって「にとり」だけど、なんだか変な感じである。
今のところは、順調そのものだ。


「私は、あなたに作られたの?」
「うん。そうだよ」
「すごい、のね」
「えへへ……まぁね」

ロボに、自分がどういう存在であるかを説明してあげた。
私が作り上げたロボットという存在。
理由なんかはあえて伏せておく。生まれるものには何かしらの理由が伴うものだが、それが自分の技術をひけらかす為だなんて、言いたくなかった。だから、秘密。

「……これが、私? ……姿も一緒なのね」

並んで、姿見をのぞき込む。
ロボは自分の姿に興味律々だった。私も、改めて姿見で見ると、なんともいえない心持ちだった。
私が、二人並んでいる。
見栄えの綺麗な方がロボ。髪が乱れていて、所々汚れていて色あせた服に身を包んでいる方が私。
こうやって見ると、私が偽物みたい。

「あ……にとり、座って?」
「え?」

私は、戸惑うロボを椅子に座らせると、櫛を持ってきてロボの髪をとかしてあげた。少しばかり、乱れていたのだ。

「ん……」

私が優しく髪をとかしている間、ロボは気持ちよさそうに目を瞑っていた。

「……ほいっと、できたよ」

ロボに微笑みかける。
微妙な違いだけど、やっぱり髪なんかは整っている方がより綺麗に見える。

「……ありがとう。今度は私がやってあげる」
「……へ?」
「さ、座って」

言われるがままに交代して椅子に腰掛ける。

「ひゃう……くすぐったい」
「じっとしててね」

優しく、丁寧にロボは髪をとかしてくれた。
なんだか恥ずかしいやらくすぐったいやらで、変な気分だった。
でも、気持ちいい。

「折角綺麗な髪もってるんだから、きちんとしないともったいないわよ」

ロボが呟く。お世辞でも嬉しかった。

「……さ、できた」

ロボが手を止める。私はそれを少し残念に思いながら鏡を見た。
綺麗に整えられた髪。こんな風にきちんと整えたのはいつ以来だろうか。

「ありがとね、にとり」

礼を述べて、私は櫛を受け取ると、片付けに向かった。その途中、

「った! んー……なんだろ」

何かを踏んだようで、足の裏に痛みが走った。
足を上げて見ると、小さなチップが落ちていた。何かの部品のようだけど、

「……なんだったっけ?」

割と大事なものだった気がするけど、思い出せない。
私がうーんと唸っていると、「にとりー?」とロボが私を呼ぶ。

「あ、今行くー。……ま、いっか」

私はそう自分を納得させると、作業机の引き出しにチップを仕舞い、ロボの元へと戻った。


「にと……り……?」
「「なに?」」

呼ばれて返事した声がハモってしまった。
それがおかしくて、二人で笑い合う。
家を訪ねてきた友達の鍵山雛は、私たちのその光景を、戸惑いながら見つめていた。
――見せたいものがあるから、見に来ない?
そう誘うと、雛は笑顔で家にやってきた。
久しぶりに会った雛は、やっぱり可愛かった。そんな雛に、目を瞑るよう言って、ロボを見せた。
そしたら、雛はすごく驚いて、なぜか顔を赤くして、気を失った。
目が覚めた雛に謝って、訳を話して、どうにか理解してもらったのがついさきほどのこと。
雛はまだ、目の前の現実が信じられないようだった。

「……でも、やっぱりにとりはすごいのね。あ……えと、本物の方ね」
「そうかな。えへへ」

雛に褒められて私は照れて頭をかいた。
それからは、ロボも交えて私達は楽しい時間を過ごしていった。

「にとり……あの」

雛が帰ったあと、ロボが何か言いたそうな顔をした。

「どうしたの?」
「……ううん。なんでもないの」

ロボはそう言って力なく笑った。
その表情が雛に重なって見えて、そういえばロボの性格などのベースモデルは雛だったっけと思い出し、本人にそのことを言わなくてよかったと思った。


雛をときどき交える形で、ロボと私は日々を送っていた。
ロボは外の世界を知らないし、幻想郷がどんなところなのかとか、どんな妖怪や人間が暮らしているか知らない為、真剣に話を聞いていた。
元々の目的である魔理沙に見せるのはまだ先の予定。ロボがもう少し幻想郷のこととかを理解してから。
でも、相変わらず雛を呼んだ日の夜には、私をちらちらと見て、何か言いたそうだった。

「……ねぇ、にとり」

それは、ある日のお昼のことだった。

「なーに?」

作業をしている傍らで、ロボが私に声をかけてきた。
この、同じ名前の呼び合いも、だいぶ馴れてきたなぁなんて思う。

「うん……なんだかね、私、おかしいの」
「え?」

私は思わず振り返って、ロボの様子をうかがった。

「大丈夫? どこか調子悪いの?」
「あ、そういうのじゃなくてね」

詰め寄る私に、ロボは手を振って苦笑した。

「なんだか、私、にとりのことを想うとね――胸の辺りが苦しくなるの」
「――へ?」

そんなプログラムいれたっけ?
そんなことを考えている私に構わず、ロボは話を続ける。

「寝るときににとりの顔を見ていると温かい気持ちになるし、夢ににとりが出てくると嬉しいの」
「え、えっと……」

な、何を言っているんだろう?

「それにね、考えてみたんだけど、私はにとりと瓜二つじゃない? にとりが、私をどんな気持ちで作ったのかとか、どうして私が作られたんだろうかってあれこれ考えてみると、頭の中がごちゃごちゃになるの」

こ、これってもしかして、

「ねぇ、にとり――好き」
「!?」

言われてしまった。しかも面と向かって。視線がしっかりと交わっている状態で。
私は体が熱くなるのを感じた。心臓がやばいくらいに早鐘を打つ。顔は――きっと耳までで真っ赤に染まっているだろう。

「これが、恋ってものなのかはわからはいけど、私は、にとりのことが好き。にとりは、私のこと、好き?」

甘えてくる小動物のような仕草で、ロボは私に尋ねてきた。
どうしよう、すごく可愛い。今すぐ抱きしめてしまいたいほどに。
体が火照りすぎてクラクラしてきた。
でも――。

「……にとり?」

私は、ロボの顔を手で遮った。一つ深呼吸をして、心を落ち着け脳に酸素を送る。
ロボ相手に何を考えているのか。
それに相手は私の分身なのだ。これじゃどう考えても寂しい奴じゃないか。
それに、ロボはどうしてこんなことを考えるようになったのだろうか。こんな風になるなんてもちろんプログラムしてないし、こうなる確率なんて……!
そこまで考えて、私はとあるものを思い出した。
作業机の引き出しの中に仕舞ったあのチップ。あれは、思考回路部分の――となると、ロボは独りでに新しい感情と思考を形成したことになる。

「にとり……」

ロボが震える声で呟く。肩の辺りが小刻みに震えている。泣きそうな兆候だ。

「……」

私は、黙ったままロボに向き直った。
このままの状態で様子を見たい。でも、このままだと私は――引き返せなくなる。

「……私も、好きだよ……にとり」

そう言って、私はロボのことを抱きしめた。柔らかくて、確かな温もりが私の腕の中に存在する。

「あ……あ……にとり……ひぐっ」

ロボは私に抱かれたまま泣きじゃくった。嬉しさが伝わってくる。
でも、私は複雑な胸中で、ロボの頭を優しく撫でていた。
これからどうするべきか。
――そんなの、決まっている。


「明日は、一緒に外に行こっか」
「……本当に?」

ベッドの中で手を繋ぎ、向かい合って話す。
ロボは、私の言葉に顔をほころばせた。
ずっと家の中だけで過ごしていたから、外の世界を見せてあげたい。それは、私の純粋な想いだった。

「うん、約束」

そう言って、ロボの小指に自分の小指を絡める。

「約束……」

その手を見つめて、ロボは微笑んだ。

「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます。ゆーびきった!」

お約束の歌を歌って、私たちは微笑みあった。

「さ、寝よ」
「うん……おやすみ、にとり」
「おやすみ……にとり」

いつもの名前の呼び合いを経て、程なくすると、ロボはすやすやと寝息をたてた。
私は、そんなにとりの寝顔をしばらく見つめ、ロボが寝ていることを確認すると、起こさないように静かに体を起こした。

「……」

窓から差し込む月明かりに照らされたロボの寝顔は、幻想的で、本当に綺麗だった。その髪を優しくかきあげてあげる。

「……ん……にとり」

ロボの寝言で、以前夢の中でも二人が一緒にいると聞いたことを思い出して、苦笑する。
さて、そろそろいいかな。
私は、覚悟を決めた。

「――ごめんね、にとり。約束、果たせないや」

最後に名前を呼んで、私は、

――にとりの起動ボタンをオフにした。

小さな駆動音が静まっていき、すやすやとたっていた寝息も止む。
先ほどと見た目は変わらないけれど、ロボは確かに今、その活動を停止している。生き物で言えば、仮死状態。もう一度起動ボタンを押せば元に戻るけれど、そうはしない。

「……のびーるアーム」

手に持ったリュックから飛び出した手が、ロボを優しく抱える。だらりと垂れた腕が、ここ数日間の生き生きとしたロボの姿からしたら信じられなかった。
そのまま私は、ロボを携えて作業場へと向かった。
作業台にロボをゆっくりと下ろす。
横たわるロボを見て、私は、ロボを初めて起動した日のこと、そして、その後のロボとの日々を思い出していた。
戸惑うロボ。真剣な表情のロボ。頬を膨らませ、何か言いたそうな、安心して眠る、頬を染めて迫ってくるロボ。
全部が、今となってはかけがえのない思い出だ。
でも、私はもう、覚悟を決めたのだ。
ロボは、一番私が危惧していた状態になってしまったのだ。
それは、プログラムにはない新しい感情と思考を独りでに形成してしまうこと。
そうなった機械ほど、恐ろしいものはない。
それを防ぐべく、チップを付ける手はずだったのだが、私のミスでそれを怠ってしまった。
技術者としては、今の状況を見守りたい気持ちもある。でもそれは、苦しみを余計に募らせるだけ。
原因を作ったのも、ロボの命を摘み取るのも、私の勝手。ロボに罪はないけれど、でも……。
私は、ロボの後頭部からメモリーを抜き出す。これには、ロボの全てが詰まっている。
私はそのメモリーを作業台と反対側にある機械にいれた。
データの管理や編集、そして――削除ができる機械。
私は、一つ深呼吸して削除ボタンに手をかけた。
その瞬間、私の頭の中にロボとの思い出が再び巡りだした。
頬を、熱いものが伝う。
それでも、私は、全てを振り払うように頭を振り、

「……ばいばい、にとり」

別れの言葉を言って、私は静かにボタンを押した。

――データを削除しました。


あとがき的なもの

元々この話は知り合いさんとの会話から生まれたものだったりします。それを勢いで書いて気が付いたらこうなってました。とりあえず最後のシーンが書きたかった。想像していたとおりには書けなかったけれど。色々と説明の足らないところとかあるけど見逃してください。あまり深く考えてはいなかったもので……や、割といつものことなんですけどね。

救われたい方はこんなのものを書いてみたのでどうぞ

それから……