それから……(にとにと)

あれから、ひと月が経った。
あれは、偶然の産物に過ぎなかった、そんな分かりきった言葉を無視するよに、私はひたすら作業を続けた。
あれ以後、何度試みてもあのときと同じような結果にはならない。
それでも、焦燥感というか、罪の意識にさいなまれるように、私は今日もあのときと同じサイクルを繰り返しては、再び改良を加える。
――自分とそっくりのロボットの。
それでも、結局ロボが同じような状況になることはなかった。

「にとり……」

雛が心配するけれど、私は黙ったままうなだれていた。
何日も籠もったままだった私を心配して訪ねて来てくれた雛。
まったくもって、私は良き友達を持ったものだ。
そんな雛に、私は全てを話したところだった。
ロボが私に好意を抱いたこと。
それを受け入れ、私はロボを裏切ってメモリーを消去したこと。
雛は黙って聞いていた。
そして何も言わずに私の頭を優しく抱きしめてくれたのだ。

「……これから、どうするの?」

雛の問いに、私は変わらず黙ったままだった。
これから、どうするのか。
それは、私が聞きたいことだった。

「わかんない……」

そう呟いて、私はまた黙り込んだ。
雛は、困った表情を浮かべてはいたものの、私を気遣ってか帰り際まで何も言わなかった。
雛と別れてから、私は自分なりにいろいろと考えてみた。
それでも、答えは出ない。
結局、私は考えるのをやめ、ロボをいじることも止めた。
何をする気力もなく、ただ漫然と過ごす日々。
そんなある日、魔理沙が家を訪ねてきた。
気乗りしない私ではあったが、魔理沙がやたらと絡んでくるので、仕方なくロボを見せることにした。

「……ちょっと待っててね」
「なるべく早く頼むぜ」

居間に魔理沙を残し、私は足取り重く工房へと向かった。
ロボは、以前と変わらずに作業台に横たわっていた。
一週間ぶりの再会だった。
しばらく佇んで見つめてから、私はのそのそと起動する為の作業をこなした。
わずかながら、起動したときにメモリーが戻らないかと考えている自分に気づいて、気が滅入る。
そんなの、あるわけがない。
もう何度も経験したことではないか。
私は、黙々と作業に集中することにした。
その最中、

「おぉ! なんだこれ!」

振り返ると、魔理沙が工房の入り口に立っていた。待ちきれなかったのだろう。

「これ、お前が作ったのか?」
「中身はね。色々と協力してもらった部分もあるけど」

魔理沙は目を輝かせ、穴のあくほどロボを観察した。

「こいつ、動くのか?」
「まぁ、一応ね」
「まじか! 動かして見せてくれ!」

魔理沙に急かされるまま、私はロボを久しぶりに起動させた。
静かな駆動音と金属音を響かせ、ロボが目を覚ます。
そこから上体を起こし、ゆっくりと状況を確認している。
――あの日のようだった。

「すごい、すごいぜ!」

魔理沙が興奮しながら見つめる。そして、ロボの前に回る。

「……私は、GK-002、河城にとり。あなたは?」
「喋ったぜ! ……こほん。私は霧雨魔理沙だぜ」

握手を交わす二人。
私は、複雑な気持ちでそれを見ていた。

「あなたは?」

ロボがこちらを向く。

「私は……」

複雑な胸中の私は俯いてしまった。
そんな私を、ロボも魔理沙も首を傾げて見ていたに違いない。
私は、決心した。
この子はもう、あのときのロボじゃない。そう切り替えて、接しようと。

「私も、河城にとりっていうの。よろしくね」

精一杯の笑顔を作る。
ロボは、

「にと、り……?」

私の名前を聞いて、驚いたようだった。
当然か、と思いつつふとロボの顔を見ると――優しく微笑んでいた。

「にとり……」

その柔らかく穏やかな笑顔はまるで、あのときのロボのようだった。
私は淡い期待を抱いた。

「私と、同じ名前なのね。でも不思議。なんだか心地よい響き。……よろしくね、にとり」

そう言って、手を差し出してくるロボ。
私の期待通りの展開ではなかった。
でも私は、なんだか無性に嬉しかった。
ロボの手を取って、微笑み合う。

「うん、よろしくね!」

そんな私たちの様子を、魔理沙は不思議そうに見つめていた。
あのときのロボの記憶は、しっかりと刻まれているのだ。
私は自分の手を見つめながらそう確信した。


あとがき的なもの

正直よくわかりません(汗)これで救われたかというと、微妙以外のなにものでもないですね。もっとしっかり書けるようにしたいです。あと相変わらずの説明不足の部分は見逃してk(ry