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かわいい「もこたん」

最近、藤原妹紅の様子がおかしい、と蓬莱山輝夜は思っていた。
その要因は、二人の間で度々行われている弾幕バトルでのこと。ここ最
近妹紅は、終わった際に輝夜に何かを言いたそうにしていた。たいていは輝夜が催促すると「なんでもない」と言ってそっぽを向いてしまうのだが、会う度にそんな感じなので輝夜は凄く気になっていた。
悪態をついたり、捨て台詞を残していくなりすることはよくあることな
のだが、口ごもり、結局何も言わずに帰ってしまうのはどういうことなのか。
「なんなのかしら…………凄く、気になるわね」
妹紅の言いたそうな言葉を考えてみる。
自分の顔が見たくないとか? それも当然のことかと輝夜は一人苦笑い
を浮かべた。だがそれだと弾幕バトルに来なければいいだけのことであるし、今更といった感じである。
実はお前のことが……いや、妹紅に限ってそれはないだろう。寂しいこ
とだが、妹紅は人里にいる女性に懐いている。好意を抱くとしたらいがみ合う自分よりは優しさに溢れている彼女の方だろう。
あれこれと考えてみるが、結局結論は出なかった。
「行ってみた方が早いわね」
輝夜はそう呟いて部屋を後にした。

室内にはペンを走らせる音が木霊していた。
上白沢慧音は自室で一人、生徒たちの答案用紙とにらめっこをしていた
。ひたすらペンで円を描く、レ点をつける、の作業を繰り返す。
「……ふぅ」
慧音はキリのいいところで一息つくことにした。
何気なく窓の外を見やった。日はとっくに沈み、夜が更けた空には、月
が浮かんでいる。満月ではないものの、形の良い下弦の月が、煌々と輝きながら星を圧倒するように自分の存在をアピールしていた。
「……」
慧音の頭の中に、ふと妹紅のことが浮かんだ。
最近の妹紅は目に見えておかしいと慧音は感じていた。
家を尋ねてもすぐには招き入れてくれないし、部屋の中を片付けようと
すると止められる。今までそんなことはなかったのだが……。
「まぁ、妹紅には妹紅なりの理由があるのだろう」
女の子としての自覚が出てきたとかかな、そう完結させて慧音は作業に
戻ることにした。
「…………」
しかし、作業を再開したものの、無性に妹紅のことが気にかかり、作業
がはかどらない。更には頭の中で色々な理由を思い浮かべてしまう。
自分のことが嫌いになった? 何か妹紅の嫌がることをしたのかもしれ
ないが、自分には心当たりがない。しかし、妹紅なら嫌なら嫌とすぐに言ってくれるはずだ。
輝夜が通いつめているとか? 確かに最近の二人を形容するなら「ケン
カするほど仲が良い」だがそこまでの関係ではない……はずだ。
「……行ってみる、か」
そう呟くや慧音は、放たれた矢の如く夜の空へと飛び出した。
里から離れ、竹林を奥へ奥へと飛ぶ。暫くして、明かりの灯った一軒の
家が見えてきた。
(様子を見るだけだ、見るだけ、見るだ……ん?)
心の中で言い訳を反芻していると、妹紅の家の傍に先客を見つけた。
(あれは……)
輝夜だった。不思議に思いながらも、もしや自分の勘が当たっていたの
だろうかと思い、近づいていった。
着地すると同時に、輝夜もまた慧音の存在に気がついた。
輝夜は一瞬驚き、次いで何かを考える仕草をしながら、慧音に歩み寄っ
た。
「ここで何を――むごごっ!」
喋ろうとした慧音の口を、輝夜は素早く塞いだ。口元には指を立て、静
かに、という仕草をする。慧音は訳がわからないまま、とりあえずは頷くことで理解したことを伝え、解放してもらった。
「……ふぅ、いったいなんなんだ?」
輝夜の行動の意図がわからないまま、慧音はとりあえず小声で話すこと
にした。輝夜は、妹紅の家の方を向いていたが、すぐに向き直ると慧音の疑問に同じように小声で答えてくれた。
「あなたも、妹紅のことが気になって来たんでしょう? だったら気づ
かれたら終わりじゃない」
なるほど、と慧音は頷いた。確かに声が聞こえたら私たちの存在がばれ
てしまう。……ん? あなた『も』?
慧音はまたもや疑問を抱いた。確かに自分は妹紅のことが気になってこ
こまで来たのだが、輝夜も同じ理由なのだろうか?
「……妹紅は、やはりどこか変なんだな?」
慧音の言葉に輝夜は黙って頷いた。そうか、やはり気のせいではなかっ
たのかと慧音は思った。
「日常生活の変化は私よりあなたの方が詳しいでしょうけど、弾幕バト
ルの前後の行動がちょっとおかしいのよね……やーね、そんな目で見ないでよ。そもそも弾幕バトルは今でこそやる理由は変わったけど、私と妹紅の存在意義を表した戦いのようなものなんだから、あなたにはとやかく言う権利はないのよ」
慧音の鋭い視線を受けた輝夜は、それでも余裕たっぷりに答えた。慧音
も、それ以上は何も言わなかった。
「さて、と。とりあえず本題にはいりましょ」
そう言って輝夜は妹紅の家の壁に張り付いた。
輝夜は窓から中を覗き込もうとしていた。輝夜に続いて壁に張り付いた
慧音は、殊更小さな声で輝夜に尋ねた。
「どうして普通に入っていかないんだ? 正面から堂々といけばいいだ
ろう」
「あいつが素直に教えてくれると思う? あなたならともかく私が入っ
ていったらややこしいでしょ。っていうかあなたも理由を知らないから来たんじゃない」
「む……」
率直に思ったことを口にした慧音だったが、輝夜のもっともな言葉には
何も言い返せなかった。
「だからこっそりよ、ね?」
そう言って、悪戯っぽく微笑む輝夜。
「だが、それでは――」
「知りたくないの?」
「……」
間髪いれない輝夜の魅力的な問いに対し、慧音の頭の中には何故か知り
合いの白黒の魔法使いと地獄の裁判長が現れた。
「気になっても相手の許可なくというのはいけません。今回は我慢です
。我慢こそ今のあなたにできる最良の善行です」
「お姫様の意見に従うべきだぜ。そのためにここまで来たんだからな。
我慢は身体に毒とも言うじゃないか」
それぞれの言い分、どちらが今の状況で正しいのか、慧音は悩んだ。そ
して、長い葛藤の末に決断した。結局、心の中ではすまないと妹紅に謝りながら、「わかった」と輝夜の提案にのることにした。と同時に、頭の中の魔法使いが裁判長めがけてお得意の魔砲を放ち撃退した。
その言葉を聞いて輝夜はにっこりと笑みを浮かべた。そして二人して窓
に取り付き、同時に中を覗きこむ。
中で広がっていた光景に、輝夜は笑いをこらえ、慧音は唖然とした様子
で眺めるのだった。

妹紅は、天井の明かりを見上げながらぼーっとしていた。
時折寝返りをうつ以外は特に何をするでもなく、ただゴロゴロとするだ
けである。
「……ふぅ」
一息ついてむくりと身体を起こす。ぼーっとしながら部屋を見回すと、
とあるところに目がが止まった。
その視線の先にあったのは二体の人形――それぞれ慧音と輝夜の容姿の
人形――だった。その人形は以前、偶然に出会った人形使い、アリス・マーガトロイドから成り行きで何故か貰ったものだった。妹紅は、おもむろにそれを手に取ると、そのうちの輝夜の人形に語りかけた。
「輝夜……私がお前を憎む気持ちは今も変わらないが、こんな私と変わ
らず付き合ってくれてありがとな…………はぁ、人形相手ならスラスラと言えるんだがなぁ」
人形を貰ってからというもの、妹紅は人形に話しかけるようになってい
た。別になんてことはない。アリスに人形に話しかけるといいと言われたからその通りにしているだけだ。話しかけることで人形に意思が宿る、を実践しているわけではなく、妹紅曰く、ただなんとなく、である。
ばつが悪そうに頭をかく妹紅。輝夜が気にかかっていたのは今の言葉だ
った。しかし、妹紅は、輝夜と面と向かうと無性に照れくさくて言葉が出なかったのだ。
妹紅は、今度は慧音の人形に語りかけた。
「なぁ慧音。こんな意気地のない私を見たら慧音は笑うよな。いや、慧
音なら応援してくれるかもしれないけど。慧音には、いつも迷惑かけっぱなしだよな……こんな私の面倒をいつもみてくれてありがとうな」
人形とはいえ、自分の思いを打ち明けることで気持ちが楽になるのも、
妹紅が人形に話しかける一因の一つだった。
すっかりリラックスムードの妹紅は、何を思ったか人形を両手に遊び始
めた。
「輝夜、今日こそお前を倒す」
「あなたに出来るかしら?」
といった具合に即興で人形劇を繰り広げる。妹紅はなんだかんだ言って
人形遊びに夢中になっていた。その時。
「……ぷっ」
「っ!?」
驚いた妹紅が声のした方を振り向く。そこには、
「な、な、なんでお前らがここに……!」
窓から本物の輝夜と慧音が覗き込んでいた。輝夜は吹き出しはしたが必
死で笑いをこらえていて、慧音にいたっては軽く涙ぐんでいた。
「……次に声をあげて笑ったら殺す」
頬を染めながら精一杯の低い声で輝夜を牽制する妹紅。一部始終を見ら
れていたことに気がついたようだ。
「……妹紅がお人形さんごっこ……ぶっ」
我慢しきれなくなった輝夜が吹き出し、それを機に「妹紅ったら可愛い
ー」と言いながら笑い始める。妹紅は身体が熱くなるのを感じた。顔全体がこれ以上ないくらいに真っ赤になっていた。
怒りと恥ずかしさから頭の中がグチャグチャになった妹紅は、俯き、そ
の場にヘナヘナと座り込んでしまった。
「うっ、うっ……恥ずかしくてもうお嫁に行けない」
さめざめと泣きながら意味不明な言葉を呟く妹紅だったが、その言葉に
瞬時に反応したのは慧音だった。
「も、妹紅、大丈夫だ! 私が責任持って貰ってやるから!」
その言葉に「慧音……」と顔をあげる妹紅。そこで、笑っていたはずの
輝夜の顔が真面目なものに変わった。
「ちょっと、ふざけないでよ。もこたんは私と一緒になるの!」
「……もこたん?」
輝夜の言葉に慧音が首をかしげる。
「そうよ、こんな可愛い妹紅のことはもこたんと呼ぶべきよ」
輝夜は胸を張って堂々と言い放った。
「もこたん、か……いいな。だがもこたんは譲らん」
「あら、やる気?」
にらみ合う両者。オロオロする妹紅。ついには二人、妹紅を賭けた殴り
合いが始まるが、相変わらず妹紅は泣きながら見ていることしかできなかった。
そんなこんなで、今日も三人の夜は更けていくのであった。

 

 

後日、魔法の森の一角で火事が起こり一軒の家が焼失し、烏天狗の新聞の記事となったが、特に話題にはならなかったという。